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東京高等裁判所 平成2年(ネ)4308号 判決

アメリカ合衆国

カリフォルニア州ドミングィーズ ヒルズイースト グラッドウィック ストリート 二〇三〇

控訴人

ウィンドサーフィン インターナ ショナル インコーポレイテッド

右代表者

ホイール シュバイツアー

東京都渋谷区本町一丁目六〇番三号

控訴人

勝和機工株式会社

右代表者代表取締役

岡邦彦

右両名訴訟代理人弁護士

三宅正雄

安江邦治

右輔佐人弁理士

松永宣行

東京都豊島区西巣鴨一丁目五番六号

被控訴人

株式会社ネプチューン

右代表者代表取締役

竹之内信広

右訴訟代理人弁護士

吉澤敬夫

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人等の負担とする。

3  控訴人ウインドサーフィン インターナショナル インコーポレイテッドの上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人等

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人等各自に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六二年六月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人は、控訴人勝和機工株式会社に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六二年六月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

5  仮執行宣言。

二  被控訴人

主文1、2項同旨。

第二  当事者の主張及び証拠

当事者双方の主張及び証拠関係は、「当審における証拠関係は、当審記録中の書証目録のとおりである。」と付加する外、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求の原因1、同2及び同4(一)(1)についての判断並びに請求の原因3の一部についての判断は、原判決三一枚目表二行から三二枚目表二行までのとおりである(但し、原判決三一枚目表六行目の「乙第七号証」とある次に「及び乙第八号証」を加入する。)からこれを引用する。

なお、甲第一号証によれば、本件発明は、一九六八年(昭和四三年)三月二七日、アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、特許出願されたものであることが認められる。

二  そこで、仮に、被控訴人が控訴人等主張のとおり被告製品を販売したものとして、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

まず、請求の原因4(一)(1)記載の本件発明の構成要件の内、cエの「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」を備えるという特徴を、被告製品が具備するか否かを検討する。なお、以下において右cエの構成要件またはその一部を引用する場合に、「該」及び「前記」の語を除いた、「ブームをにぎる使用者が帆を波乗り板上で回転及び起伏させることができるように円柱を波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」というか、又はその一部で引用することもある。

1  特許発明の技術的範囲は、特許願に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないものであるから、特許発明の技術的範囲を定めるに当たっては、その特許請求の範囲の記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして一見して明らかであるとか、あるいは、特許請求の範囲に使用されている用語が、通常の意味と異なる特定の意味で使用されていることがその定義と共に明細書の発明の詳細な説明に明確に記載されているなどの特段の事情がある場合に、誤記を正しい意味に訂正し、特定の意味の定義を補充して解釈する以外は、まず、特許請求の範囲それ自体を技術用語及び国語の通常の意味と文法に従って解釈することによって定めるべきものである。そして、右のような解釈では特許請求の範囲の技術的意義を一義的に明確に理解できない場合に発明の詳細な説明及び図面の記載並びにそれらに記載のない事項であっても当業者が当然の前提としている技術常識を参酌することが許されるものである。

2  本件発明の構成要件cエに相当する特許請求の範囲の記載をみると、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」とを備える、というものであるところ、「該ブーム…連結する」までは、その直後の「ユニバーサルジョイント」を修飾する関係にあることは明らかである。

そこで、まず、特許請求の範囲における「ユニバーサルジョイント」の意味について検討する。

(一)  日本工業規格(JIS)は、工業標準化法第一一条の規定により主務大臣が制定した工業標準であり(同法第一七条)、同法における工業標準とは、鉱工業の技術に関する用語、略語、記号、符号、標準数又は単位等同法二条各号に定められた事項を全国的に統一し、又は単純化すること(工業標準化)のための基準をいうものである(同法二条)。そして、主務大臣がJISを制定しようとするときは、日本工業標準調査会の議決を経る等慎重な調査審議を行うものとされているのであるから、JISに規定された用語の意味は、鉱工業の技術に関する用語の解釈に当たっての有力な資料の一つである。

JIS〇一三六は、昭和四九年七月一日に制定されたクレーン用語に関する規格であるが、その中に、「自在軸継手」の意味が「主として軸線が一致しないである角度を持った二軸の接続に用いる軸継手」であると規定され、参考として、「自在軸継手」に対応する慣用語が「ユニバーサルジョイント」であるとされ(番号三〇六三)、「軸継手」の意味が「軸を連結する継手」であると規定されている(番号三〇六〇)こと及びJISには右以外に「ユニバーサルジョイント」の定義に関する記載が見当らないことは、当裁判所に顕著である。

(二)  「学術用語集」は、学術用語を平易・簡明なものに統一するため、文部省学術奨励審議会学術用語分科審議会が関係学会・団体の協力のもとに、各学術分野ごとにまとめ、文部省が編集したものであり、その改定は、関係学会が調査研究した原案を、学術審議会学術用語分科会の審議を経て、学術審議会から文部大臣に建議されたものであるから、技術用語は学術用語を用いるものとされている(特許法施行規則様式第16の備考7)明細書の用語の解釈に当たっての有力な資料の一つである。

右のような「学術用語集」の一つである「学術用語集機械工学編」は、昭和三〇年三月二〇日に社団法人日本機械学会が発行したものであるが、その中の第1部和英の部及び第2部英和の部にそれそれ「universal joint」が「自在継手」に対応する英語として記載されていること、また、「学術用語集機械工学編(増訂版)」は、昭和六〇年一二月五日に社団法人日本機械学会が発行したものであるが、その中にも右と同様の記載のあることは、当裁判所に顕著である。

(三)  乙第六号証の一ないし三(木内〓著「機械設計便覧 新版」日刊工業新聞社昭和四九年四月三〇日発行、二五四頁から二五五頁まで)によれば、同号証には、交差軸継手についての説明として、一平面内にあって傾いたままの状態で回転する二軸間の伝動に用いられる軸継手であって、自在継手(ユニバーサルジョイント、universal joint)とも呼ばれ、クロスジョイント交差軸継手と等速交差軸継手の二形式がある旨、クロスジョイント交差軸継手は、本判決別紙第1図、第2図に示すように二本のボルト1、2が、すなわち二本の棒が直角方向に配置されてクロスジョイントをなし、そのまわりに軸が揺動することができる構造になっており、フック自在継手ともいわれる旨、等角速交差軸継手は、角速比が常に一になるように工夫し、クロスジョイント交差軸継手の欠点を除去した交差軸継手であり、本判決第3図に示すようなボール1、2を介して運動を伝えることを原理とするものであり、本判決第4図はその原理を具体化した例である旨の記載があり、本判決別紙第2図記載のものは二本のボルトが同一平面にあるものであるが、本判決別紙第1図記載のものは二本のボルトが同一平面にないものであることは、各図から明らかである。

(四)  乙第一号証の一ないし三(日本機械学会編「機械工学便覧改訂第六版」社団法人日本機械学会昭和五二年七月一五日発行、七-六三頁から七-六四頁まで)によれば、同号証には、自在軸継手は、二軸の交わる角が自由に変化しても回転を伝える軸継手を自在軸継手といい、不等速形と等速形の二種類がある旨、不等速形自在軸継手は、一般にフック(カルダン)形軸継手と呼ばれるもので、その構造は、ヨークを持った継手本体と十字型金具からなり、この間にニードル軸受又は軸受ブシュを挿入する旨、軸の交角は四五度までとれるが、動力伝達用では回転数が約二〇〇〇回毎分のときは二〇度以下にとるのがよい旨、回転力が小さい小型の軸継手には、構造を簡単化した玉型自在軸継手が用いられる旨、等速型自在軸継手には、ベンディクス形やバーフィルド形などがある旨、ベンディクス形の原理は、左右のヨークで四個のボールを抱いていて、常に二軸の交角の二等分線上にボールが位置するようになっているものである旨の記載があることが認められる。

(五)  乙第二号証の一ないし三(軸継手図集分科会編「機械図集 軸継手」社団法人日本機械学会昭和四六年五月一五日発行、二頁から四頁まで)によれば、同号証には、自在軸継手は、交差する二軸を結合する軸継手で、スプラインなどのしゅう動軸を併用すれば、軸継手の曲折角が変化しても回転を伝えることができ、駆動軸と被動軸の角速度比が一回転中に変わる不等速形と、変わらない等速形がある旨、不等速形自在軸継手は、一般に十字形、フック形又はカルダン形などと呼ばれている軸継手で、小型のものは、こま形、ボール形などとも呼ばれている旨、等速型自在軸継手は、主として自動車用として開発されたもので二、三の形式がある旨の記載があることが認められる。

(六)  甲第一二号証の一ないし四(工業教育研究会編「英和・和英機械用語図解辞典第二版」日刊工業新聞社昭和六〇年五月三〇日発行、一三一頁及び六四七頁)によれば、同号証には、「universal coupling」の訳語として「自在継手」が記載され、その説明として、二軸が、ある角度(一般に三〇度以下)をして交わっている場合に用いられる継手と記載され、本判決別紙第5図のとおりの図が付されていることが認められる。

右(一)ないし(六)の事実によれば、機械工業の分野で一般に「ユニバーサルジョイント」といえば、「自在継手」とも「自在軸継手」とも呼ばれる、「軸線が一致しないである角度を持った二軸を連結し、一方の軸の回転力を他方の軸に伝達するために用いる継手」であり、その具体的な構成や種類は、右(三)ないし(六)に認定した各図書に記載されたようなものであり、いずれも「剛体からなる構成部材が互いに屈曲、揺動できるように結合されてなるもの」と理解されていると認められる(以下、機械工業の分野で一般にいう「ユニバーサルジョイント」を、「一般にいう「ユニバーサルジョイント」」ともいう。)。

甲第二号証(本件明細書)によれば、本件発明は船特に帆船の分野に関係するものであると認められるが、船、帆船の技術分野においては「ユニバーサルジョイント」を前記のような意味とは異なる意味に理解されていることを認めるに足りる証拠はなく、他方、右のような意味の「ユニバーサルジョイント」、「自在継手」あるいは「自在軸継手」は、具体的な表現こそ多少の違いはあるものの基本的な機械の要素として多くの一般的な機械工学関係の事典、基本的図書に記載されていることは当裁判所に顕著であるから、本件発明の特許請求の範囲の解釈に当たって、前記の意味での「ユニバーサルジョイント」を考察の基礎として差し支えはない。

次に、本件発明の構成要件cエの内、「ユニバーサルジョイント」を修飾している、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結する」との部分について検討する。

右部分の内、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように」は、その直後の「前記円柱を前記波乗り板に連結する」態様を修飾する関係にあることは明らかであり、また、ブーム、使用者、帆、波乗り板、円柱の意味については、特許請求の範囲のそれより前の部分中に限定があり一応明らかであると認められるが、「帆を波乗り板上で回転及び起伏させることができるように」とはどのような状態を表すのか、一般的用語の意味から理解できないわけではないものの、必ずしも一義的に明らかではない。

そして、「該ブーム・・・連結するユニバーサルジョイント」という構成要件を全体としてみたとき、「該ブーム・・・連結する」までの修飾とその後に続く「ユニバーサルジョイント」を前記認定のような一般的な意味に解することとの間に齟誤はないかも明らかではない。

3  そこで、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面の記載について検討する。

甲第二号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には次のような記載があることが認められる。

(一)  本件発明の技術課題、目的について、「帆を波乗り板に固定することによって・・・人々は軽量な帆船の速度と感じを得る代わりに帆船を制御するに適当な熟練が必要となる。横ゆれに対する安定性がない波乗り板に帆を取付けることによって突風や激風によって波乗り板が転ぷくする問題が発生する。・・・本発明の目的は風に対する感応性と速度を増大し且つ波乗り板の従来の乗心地と操縦性すなわち制御特性を増強してそれから得られるたのしみを増すようになった風力推進手段を波乗り板に取付けることである。」との記載(甲第二号証一枚目左欄二〇行から右欄一行まで)。

(二)  本件発明の構成について、特許請求の範囲と同じ記載(甲第二号証一枚目右欄一行から一二行まで)。

(三)  本件発明の特徴について、「本発明は殆どすべての操縦とかじとりを帆を通じて行い、かじやその他の操縦機構を設けても良いが無くてもよい。帆をあやつることによって加速、方向転換、上手回しを行うことができる。しかし乍ら帆は回転及び起伏自在になっているから使用者が帆を保持して船を安定させねばならない。突風又は激風時に使用者は帆を離せば、帆は直ちに風力を受けない方向に移動する。」との記載(甲第二号証一枚目右欄二五行から三二行まで)。

(四)  本件発明の効果について、「本発明によれば、風力推進手段をそのユニバーサルジョイントを介して回転及び起伏自在に波乗り板に連結したことにより、突風又は激風時に風力推進手段のブームから手を離せば、該風力推進手段はその帆に風を受けない方向へ倒れ、波乗り板を安定させ、その転ぷくを防ぐことができる。」との記載(甲第二号証三枚目右欄四行から九行まで)。

(五)  実施例について、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆ど自由浮動状態にすることができるような接手によって波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。」との記載(甲第二号証一枚目右欄一三行から一七行まで)。

(六)  本件発明の実施例としての三軸線ユニバーサルジョイントを使用したものの構造について、原判決添付の本件訂正公報三枚目の第2図のとおりの図の記載を参照した、原判決三五枚目裏八行目の「第2図を参照すれば」から三七枚目表七行目の「回転させることができる。」までの記載(これを引用する。)。

(七)  本件発明の実施例としての三軸線ユニバーサルジョイントを使用したものの操作について、「若し使用者が風下に進行していて方向転換したいとき、彼は帆14を前方に傾け、風の力を波乗り板10の先端部に作用させ、・・・若し使用者が上手回し間切りをするために風にまともに向かっていきたいとき彼は帆14を後方に引いて風の力を波乗り板10の後方に作用させ、・・・突風によって波乗り板10がひっくりかえろうとするおそれのあるとき使用者は単に帆をはなして風にまかせて危機を脱する。」との記載(甲第二号証三枚目左欄二行から二〇行まで)。

右(六)認定の原判決認定にかかる本件発明の実施例の構成についての記載及び原判決添付の本件訂正公報中の第1図、第2図によれば、実施例において円柱12を波乗り板のダガーボード20に連結している三軸線ユニバーサルジョイント36は、〈1〉円柱の下端に取り付けられたベース27の両側に木ねじ37で保持される締め板38及び40、〈2〉管46、〈3〉締め板38及び40の延長部42及び44と管46とを回転自在に連結する頭付きピン48、〈4〉クレビス58、〈5〉管46とクレビス58とを回転自在に連結する頭付きピン62、〈6〉クレビス58のベース71をダガーボード20に回転自在に連結する丸頭のねじ68等を主要な構成部材とするものであると認められる。

そして、前記〈3〉の頭付きピン48と〈5〉の頭付きピン62は相互に直交する水平の二つの回転軸を構成し、これにより円柱12を各回転軸を軸としてそのまわりに回転させることにより、円柱12を波乗り板で起伏することができる、即ち、円柱を波乗り板上に直立させるだけでなく、前記(五)認定の記載のように、操縦のため帆を傾けたりあるいは突風による転ぷくを避けるため帆から手を離し、波乗り板とほぼ同じ面である水面に倒したりすることができるものである。

また、前記〈6〉の丸頭ねじ68は波乗り板の面に垂直な回転軸を構成し、これにより円柱を右回転軸のまわりに回転させることができるもので、これにより使用者が波乗り板の向きに関係なく円柱を右回転軸のまわりに回転させて円柱に取り付けられた帆の向きを変えることができることは自明であり、また、前記(三)認定のように、帆をあやつることによって波乗り板を操縦することができ、且つ、突風時に使用者が帆を離すことにより、前記のように帆を倒すのみではなく、帆が風力を受けない方向に移動するにまかせることができる。

したがって、三軸線ユニバーサルジョイントを備えた実施例のものは、前記(四)認定の記載のとおりの効果を奏し、前記(一)認定の記載のとおりの目的を達成するものと認められる。

4  ところで、右3に認定した三軸線ユニバーサルジョイントの〈1〉ないし〈5〉の構成部材に着目すると、〈1〉の円柱を一方の軸とし、〈4〉のクレビスの下方へ一体に延長する想像上の軸を他方の軸とみれば、前記2に認定した一般にいう「ユニバーサルジョイント」、特に前記2(三)に認定した、本判決別紙第1図のような二本のボルトが同一平面にないものと実質上同じものと認められ、現に〈1〉の円柱の側の回転力は、〈4〉のクレビス及びその下方へ一体に延長する想像上の軸に伝達されるものと認められる。

しかし、右三軸線ユニバーサルジョイントは、右3に認定した〈6〉の丸頭ねじ68を構成部材として加えることにより、波乗り板の面に垂直な回転軸を構成し、円柱を右回転軸のまわりに回転させることができるもの、いいかえれば、円柱の側の回転力を波乗り板に伝達しないこととしたものということができる。

即ち、右三軸線ユニバーサルジョイントは、一般にいう「ユニバーサルジョイント」、即ち、「軸線が一致しないである角度を持った二軸を連結し、一方の軸の回転力を他方の軸に伝達するために用いる継手」が、そのどちらか一方の軸を固定し他方の軸を自由にすると、その自由な軸は、継手を頂点として、剛体からなる構成部材の結合の態様から定まる一定の角度の範囲内で、自由な方向に自在に屈折することができる構造であることに着目して、複数の構成部材を自由な方向に屈折自在に連結する機械要素としたもので、特に円柱を起伏させ波乗り板の面と同等にまで倒すことができるよう、自由な軸を屈折できる角度を九〇度以上にし、且つ、円柱を波乗り板の方向に関係なく軸のまわりに自在に回転させることができるよう、前記3〈6〉の丸頭ねじ68によってクレビスをダガーボードに回転自在に連結する構成を加えたものであると認められる。

そして、右三軸線ユニバーサルジョイントは、前記2に認定した一般にいう「ユニバーサルジョイント」のように軸の回転力を他方の軸に伝達することを目的とするものではないが、中心的構造が、一般にいう「ユニバーサルジョイント」と共通し、フック型軸継手の十字型金具に相当する前記3認定の相互に直交する3〈3〉の頭付きピン48と〈5〉の頭付きピン62が構成する水平の二つの回転軸の他に、前記3〈6〉の丸頭ねじ68が構成する波乗り板の面に垂直な回転軸を持ち、合計三本の回転軸を有することから、三軸線ユニバーサルジョイントと称したものであると解することができる。

5  以上のような本件明細書における発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌すれば、本件発明の特許請求の範囲における「ユニバーサルジョイント」は、一般にいう「ユニバーサルジョイント」即ち、「軸線が一致しないである角度を持った二軸を連結し、一方の軸の回転力を他方の軸に伝達するために用いる継手」で「剛体からなる構成部材が互いに屈曲、揺動できるように結合されてなる」構造を構成要素として備え、複数の構成部材を自由な方向に屈折自在に連結する機械要素と解するのが相当である。

そして、前記3(一)、(三)、(四)認定の本件発明の目的を達成し、効果を奏するためには、右のような意味でのユニバーサルジョイントの構成の他に円柱を起伏させ波乗り板の面と同等にまで倒すことができるよう、自由な軸を屈折できる角度を九〇度以上にし、且つ、円柱を波乗り板の方向に関係なく軸のまわりに自在に回転させることができるよう波乗り板に連結するものであることを要することも右4に判断したところから明らかである。

したがって、本件発明の構成要件cエの内、「ユニバーサルジョイント」を修飾している部分中「帆を波乗り板上で起伏させることができるように」とは、帆を取り付けてある円柱を直立させたり波乗り板の面と同等にまで倒したりできるようにとの意味であり、「帆を波乗り板上で回転させることができるように」とは、円柱を波乗り板の方向に関係なく軸のまわりに自在に回転させることができるようにとの意味と解することができるから、本件発明の構成要件cエの内、「ユニバーサルジョイント」を修飾している、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結する」との部分は、右に判断した特許請求の範囲における「ユニバーサルジョイント」を「ブームをにぎる使用者が帆を、右のような意味で波乗り板上で回転及び起伏させることができるように円柱を波乗り板に連結する」ものに限定する趣旨であることは明らかである。

よって、本件発明の構成要件cエの、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」とは、一般にいう「ユニバーサルジョイント」即ち、「軸線が一致しないである角度を持った二軸を連結し、一方の軸の回転力を他方の軸に伝達するために用いる継手」で「剛体からなる構成部材が互いに屈曲、揺動できるように結合されてなる」構造を構成要素として備え、複数の構成部材を自由な方向に屈折自在に連結する機械要素であって、ブームをにぎる使用者が帆が取り付けられた円柱を、波乗り板上で波乗り板の方向に関係なく軸のまわりに自在に回転させることができ、且つ、直立させたり波乗り板の面と同等にまで倒したりできるような態様で円柱を波乗り板に連結するものという意味であるということができる。

6  本件発明の特許請求の範囲中の、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」という記載から、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するもの」が即ち「ユニバーサルジョイント」であるとする解釈は、右のような解釈では、「ユニバーサルジョイント」の機能あるいは作用は示されていても、構成は何ら示されていないことになるから採用できない。

本件明細書の発明の詳細な説明中、前記3(五)に認定した、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆ど自由浮動状態にすることができるような接手によって波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。」との記載についてみると、まず、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が・・・ような接手」という読点の位置からすれば、「又は」以下に記述された接手は、ユニバーサルジョイントの例ではなく、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が・・・ような接手」とが並列の関係にあるものと読むのがもっとも素直であり、そう解すれば、右の記載は、本件発明における「ユニバーサルジョイント」の意味の解釈に関係がないものである。

また、右記載を、仮に、「三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が・・・ような接手」とが並列の関係で、それぞれが「ユニバーサルジョイント」の例であると解するとすれば、「三個の回転軸線を備えた接手」については、そのもの自体又はその一種であると解される三軸線ユニバーサルジョイントの構成について具体的詳細な記載があることは前記認定のとおりであるが、「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆ど自由浮動状態にすることができるような接手」という記載それ自体は、接手の具体的な構成を表したものではなく、接手の作用ないし機能を表しているにすぎず、本件明細書の他の部分に右の接手の具体的な構成の記載がないことは甲第二号証から明らかであり、右のような「三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆ど自由浮動状態にすることができるような接手」との上位概念としての「ユニバーサルジョイント」の構成を具体的に認定するに足りる証拠はない。

7  次に、控訴人等主張の原判決別紙目録記載の被告製品が、本件発明の構成要件cエを具備するか否かについて判断する。

被告製品の構造が原判決別紙目録記載のとおりであることは、被控訴人の争うところであるが、控訴人等の主張する原判決別紙目録記載のとおりの被告製品の構造によれば、被告製品の本体装置(ボード部、本件発明の波乗り板に相当)aとマスト(本件発明の円柱及びベースに相当)cとを連結するゴム・ジョイントkは、原判決別紙目録の第2図記載のとおりの構造で、中間部分であるゴム製屈曲部k2がゴムの弾性により屈曲可能であり、同目録の説明書の二(構造)4記載のとおり、ゴム・ジョイントkの上方部分であるマスト受部k1はゴム製屈曲部k2に対して中心軸線(ピンq)の周りに回転できるように連結されているというのであり、被控訴人も被告製品のジョイントの屈曲可能な部分が、ゴム又はプラスチックによる可撓性材料で形成されていることは認めるところである。

前記5に認定した、本件発明の特許請求の範囲における「ユニバーサルジョイント」の意味である、一般にいう「ユニバーサルジョイント」即ち、「軸線が一致しないである角度を持った二軸を連結し、一方の軸の回転力を他方の軸に伝達するために用いる継手」で「剛体からなる構成部材が互いに屈曲、揺動できるように結合されてなる」構造を構成要素として備え、複数の構成部材を自由な方向に屈折自在に連結する機械要素と控訴人等の主張する被告製品のゴム・ジョイントとを比較すると、被告製品のゴム・ジョイントは、一般にいう「ユニバーサルジョイント」即ち、「軸線が一致しないである角度を持った二軸を連結し、一方の軸の回転力を他方の軸に伝達するために用いる継手」で「剛体からなる構成部材が互いに屈曲、揺動できるように結合されてなる」構造を構成要素として備えているものとはいえないから、その余の点について判断するまでもなく、被告製品は本件発明の構成要件cエを充足しない。したがって、被告製品の構造が控訴人等の主張のとおりとしても被告製品は、本件発明の技術的範囲に属するものとは認められない。

仮に、被告製品のゴム・ジョイントが本件発明のユニバーサルジョイントと同一の作用効果を奏するものとしても、そのことから直ちに、本件発明のユニバーサルジョイントと構成を異にする被告製品のゴム・ジョイントが本件発明のユニバーサルジョイントに相当するということはできない。

二  よって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人等の被控訴人に対する請求を棄却した原判決は正当であるので、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第九三条第一項、第八九条を、控訴人ウインドサーフィン インターナショナル インコーポレイテッドの上告のための附加期間を定めることについて民事訴訟法第一五八条第二項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西田美昭 裁判長裁判官元木伸は退官のため、裁判官島田清次郎は転補のため、いずれも署名捺印できない。 裁判官 西田美昭)

別紙

〈省略〉

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